現役医師の私がAIで文書業務を半分にした話
これは一人の医師の体験談です。効果には個人差があり、ここに書く使い方も「個人情報を入れない・出力を必ず検証する」という前提の上で成り立っています。
当直明けの机に残る書類の山
正直に言うと、私がAIを使い始めたきっかけは前向きな理由ではありませんでした。当直明け、外来も病棟もこなした後、机に残る退院サマリーと紹介状の束を前に「またこれか」とため息をついていた、それだけです。
文書業務は医師の労働時間のかなりの割合を占めると言われますが、体感ではもっと重い。診療そのものより、その後の「書く時間」に消耗していました。
最初は半信半疑だった
生成AIに患者情報なんて入れられない——これが最初の壁でした。実際それは正しくて、患者を特定できる情報は今も一切入れていません。
転機は「要点を抽象化して渡すだけでも下書きは作れる」と気づいたことです。「60代・男性・約2週間入院・主病名・経過の要点」——この程度の匿名化した箇条書きでも、AIは整った退院サマリーの下書きを返してくれました。あとは私が読み返して、病名や数値を原本と照合して直すだけ。
ゼロから書いていた30分が、10分強になりました。
失敗もした
うまくいった話だけ書くのはフェアではないので、失敗も書きます。
- 存在しない検査値を書かれたことがありました。もっともらしい数値だったので、検証を怠れば見逃していたかもしれません。それ以来、数値と固有名詞は必ず原本と突き合わせています。
- 文体が患者向けに砕けすぎたこともありました。「医療者間の申し送り調で」と一言指定するだけで解決しましたが、条件を省くと意図とズレます。
AIは優秀な研修医の下書きくらいに思うのがちょうどいい、というのが今の実感です。下書きは任せても、確定するのは自分の責任。
今のルール
続けるうちに、自分なりのルールが固まりました。
- 患者を特定できる情報は入れない(年代・相対期間まで抽象化)
- 出力の病名・薬剤・数値は必ず原本と照合する
- 確定するのは自分。AIは下書き係
このルールを守る限り、文書業務は確実に軽くなりました。浮いた時間は、患者と話す時間や、勉強の時間に回せています。
おわりに
AIで医師の仕事が「激変」するとは思いません。でも、消耗していた文書業務が半分になるだけで、日々の余裕はずいぶん変わります。同じように書類に追われている先生がいたら、まずは匿名化した1通分から試してみてほしいと思います。
具体的な手順は退院サマリーをAIで時短する方法や紹介状の作成方法に、安全面は個人情報・セキュリティガイドにまとめています。